矯正が痛いと仕事に影響が出るのではないかと治療を不安に思われる方もおられるでしょう。仕事や勉強をしながら矯正治療は可能ですが、どのような期間に痛みがある方が多いかなどについて詳しくご紹介いたします。
矯正で痛いと思うケース
矯正治療を開始するにあたって気になる点と言えば、見た目の問題、食事や会話のしづらさ、長い期間などが挙げられます。これらの点以外で不安材料は、「矯正は痛い」とネットで見かけることでしょう。簡単に申し上げると、矯正の痛みは治療期間中ずっと続くわけではありません。歯列矯正の際に起きる痛みについては下記のとおりです。
矯正中の痛みの種類
●歯が動くので痛い
矯正力がかかり歯根ごと歯を動かすため、初めてワイヤーを付けた時、ワイヤーを変更した時に痛みが出ることもある
●矯正器具が当たって痛い
ワイヤーの先端が頬の内側に当たり口内炎が出来てしまう
●食べものを噛む時に痛い
硬い食べ物を噛むと、強い力が歯にかかり、矯正中の力も合わさり痛い
●お口の中に何かトラブルが生じて痛い
むし歯や歯周病になってしまうことがあり、それにより痛みを感じる
●歯を抜いた時に痛い
麻酔して抜歯を行うので治療中は特に痛みを感じることはありませんが、抜歯後に痛む可能性はある
いずれも数日で痛みが和らぐことが多いため、仕事や勉強への影響は及びにくいです。
仕事と矯正は両立可能?
成人矯正では、マルチブラケット矯正か、マウスピース矯正がよく用いられます。いずれの矯正治療も矯正器具を歯に装着して、矯正力を歯にかけて正しい歯並びへと動かす治療法です。歯は力をかけられた方向の骨を吸収して移動するため、歯の位置と骨をリテーナーという静的治療で固定します。矯正しながら仕事をされている方は多いですが、まず矯正治療を開始された直後は、口腔内に器具を装着するという違和感が大きいため、お口の状態に慣れていくことが最初のステップです。
話す仕事の場合
人とよく話す仕事の場合は、マルチブラケット矯正の表側矯正を行うと、矯正装置が舌に当たらず舌の動きを妨害しません。マウスピース矯正の場合、舌が当たりはしますが、あまり滑舌に影響を及ぼさないという感覚の方も多いです。
見た目を重視する仕事の場合
見た目を重視する仕事をされている場合はマルチブラケット矯正の裏側矯正か、マウスピース矯正をおすすめします。重度の場合は、マウスピース矯正でも表側に小さな装置を付ける可能性があるため、すべての矯正器具を見えないようにするためには裏側矯正が適しています。
飲食をする機会が多い仕事の場合
仕事で飲食をする機会が多いという場合は、表側矯正ではなく裏側矯正がより良いでしょう。この際、マウスピース矯正では飲食時に外す必要があり、外す時間が長ければ治療期間の延長やマウスピースの再作製の費用もかかるため、おすすめしません。
痛いと感じた時にすべき対処法
痛みを感じた際にすべき対処法をご紹介します。
●歯が動くので痛い
慣れてくるものではありますが、どうしても我慢できない場合は歯医者さんへ相談し、鎮痛薬を服用しましょう。
●矯正器具が当たって痛い
ワイヤー矯正の場合、粘膜や歯茎に当たる部分へ歯科用ワックスを塗ると、痛みが治まることが多いです。
●食べものを噛む時に痛い
おせんべいやりんごなどの硬い食べ物ではなく、柔らかい食べ物を慣れるまで食べるようにしましょう。
●お口の中に何かトラブルが生じて痛い
むし歯や歯周病が生じると矯正治療よりも細菌感染の対処が優先となりますので、歯科医院ですぐに治療を受けましょう。
●歯を抜いた時に痛い
抜歯後には鎮痛薬を処方されることが多いですが、飲み切ってもまだ痛い場合は、歯科医師へご相談しましょう。
矯正治療中に注意すべきことは?
矯正治療中に注意すべきことは、食事や痛み以外に、お口の衛生状態を保つこと、お口の癖を行わないことなどが挙げられます。詳しくは下記をご参照ください。
歯列矯正が痛いと仕事に影響が出るかに関するQ&A
矯正中に感じる痛みの種類には、歯が動くことによる痛み、矯正器具が頬の内側に当たって生じる痛み、硬い食べ物を噛んだときの痛み、抜歯後の痛みがあります。これらの痛みは、矯正力がかかることや口腔内環境の変化によって引き起こされるもので、一般的には数日で和らぐことが多いです。
仕事中に矯正治療の痛みを感じた場合の対処法には、痛みが強いときは鎮痛薬の服用、ワイヤー矯正の装置が原因で痛みが生じている場合は歯科用ワックスを使用する、硬い食べ物を避けて柔らかい食べ物を摂取する、そしてもしむし歯や歯周病が原因であれば速やかに歯科医院で治療を受けることが有効です。
話す仕事をしている人が矯正治療を行う場合、マルチブラケット矯正の裏側矯正やマウスピース矯正が適しています。裏側矯正は矯正装置が舌に当たらず、滑舌に大きな影響を与えません。マウスピース矯正は舌が装置に触れますが、多くの人がそれほど滑舌に影響を感じないと報告しています。これらの方法なら、話す仕事においても矯正治療の影響を最小限に抑えることができます。
まとめ
筋肉量や体つきが一人一人異なるように、矯正の痛みも個人差があります。矯正の器具を装着すると違和感を痛みと感じますが、時間の経過とともに慣れていきます。痛みが一週間以上経っても弱くならず仕事に影響が出そうな場合は、なるべく早めに歯科医院へ行き、ワイヤーの力を緩めてもらうなどの対処をしてもらいましょう。但し矯正力を緩めると、矯正で歯並びが治るスピードも遅くなる可能性があります。
歯列矯正治療中の痛みは、多くの患者が経験する一般的な副作用です。この痛みは治療の初期段階で特に顕著であり、仕事や日常生活に影響を与える可能性があります。
1. Benson, Razi, & Al-Bloushi (2012)によるランダム化比較試験では、咀嚼ガムが固定矯正装置の影響や痛みを軽減するかどうかを検証しました。結果として、咀嚼ガムを使用したグループでは、痛みと固定装置の影響が有意に減少したことが報告されています。これは、矯正治療中の痛みが日常生活や仕事に与える影響を軽減するための一つの対処法であることを示唆しています。【参照:Benson et al., 2012】
2. Laura Antonio-Zancajo, Montero, Albaladejo, María Dolores Oteo-Calatayud, & Alfonso Alvarado-Lorenzo (2020)による臨床研究では、従来のブラケット、低摩擦ブラケット、舌側ブラケット、およびアライナー(Invisalign)を使用した患者の痛みと口腔健康関連の生活の質(OHRQoL)が比較されました。舌側矯正を受けた患者群は、治療開始時の全ての時点で痛みのレベルが低く、OHIP-14スコアも他の群と比較して口腔の生活の質への影響が少ないことがわかりました。これは、矯正治療が仕事や日常生活に与える影響を最小限に抑えるための矯正装置選択の重要性を示しています。【参照:Antonio-Zancajo et al., 2020】
これらの研究結果から、歯列矯正治療における痛みの管理は、患者の日常生活や仕事への影響を軽減し、治療の快適性を向上させる上で重要であることが示されています。治療法の選択や、痛みを軽減するための対策を講じることが、治療の成功にとって重要です。