「歯の神経を抜く」という処置は、重度の虫歯になった場合などで、痛みを和らげるためや、歯を保存するために必要になる場合があります。神経を抜くと歯の寿命に影響があるのかについてご説明します。
歯の神経についての基本知識
歯の神経とは?
歯の神経、正確には歯髄(しずい)とは、歯の中心部にある軟組織で、神経細胞、血管などから構成されています。歯髄は、栄養供給と感覚の伝達に重要な役割を果たしています。
1. 歯の構造と痛み
歯は硬いエナメル質に覆われています。その内側は象牙質、更にその内側には歯髄(神経、血管)があります。あごの骨と歯の間には歯根膜と呼ばれる薄い繊維質の膜があり、ものを噛む時の力をコントロールしてクッションの役割をしています。
エナメル質は、硬い組織で神経がありません。エナメル質以外には神経があり、細菌の感染や傷によって脳に痛みが伝わります。
- 象牙質の痛み・・象牙質の中の象牙細管と呼ばれる細い管から歯髄が刺激されて、2-3秒以内の鋭い痛みが起こります。
- 歯髄の痛み・・虫歯が歯髄に達した時はズキズキとかなり激しく痛みます。何もしなくても痛みが続くため、早めに治療を受けましょう。
2. 歯髄炎と治療
- 虫歯・・虫歯が進行し歯髄まで到達すると、歯髄炎という症状を引き起こし、激しい痛みが起こります。
- 根管治療・・歯髄が炎症を起こしたり感染した場合、根管治療が必要になることがあります。これは、感染した歯髄を取り除き、根管を清掃して封鎖する処理です。
歯髄の健康は歯全体の健康に直接影響しますので、歯髄炎を起こさないためには定期的な健診と適切なケアが重要です。
神経を抜く「根管治療」とは
神経を抜く処置は「根管治療」と呼ばれます。根管治療は歯髄(神経、血管)がダメージを受けた場合や、感染によって腫れが生じた場合に行われます。
根管治療の流れ
- 根管治療をする際は、まず局所麻酔の注射で痛みを感じない状態にしてから歯に穴をあけ、歯髄を露出させて、虫歯になっている部分と歯髄をきれいに取り除いていきます。
- ファイルやリーマーという先の細い器具を使用し、細菌に感染した歯髄を完全に取り除き、根管内を薬剤できれいに洗浄・消毒します。
- 根管の中に薬を入れて仮の蓋をして1週間ほど置きます。1週間おきに根管内の薬を交換し、根管内をきれいにする処置のために、何度か通院が必要になります。
- 根管内が完全にきれいになったら、専用のシーリング剤を根管内に行き渡るように充填し、再び細菌が根管内に入らないようにします。
これで根管治療が終わりました。根管に土台を立て、被せ物を装着したら治療は完了です。
根管治療によって感覚は失なわれますが、歯自体は保たれ、今後も使用可能となります。しかし、歯髄が取り除かれると、歯は元の強度を失い、割れやすくなるため、長持ちさせるためには定期健診と毎日の丁寧なケアが必要になります。
神経を抜いた後の歯の健康状態
神経を抜いた後の歯の変化
歯髄が完全に取り除かれた後、根管の内部は根管充填材で密封されます。これにより、歯はその生理的な活動を停止し、事実上「死んだ歯」となります。歯髄が取り除かれると歯は元の弾力性が失われて硬く、脆くなります。そのため、抜髄をすると、咬合力が加わった際に割れやすくなります。
神経を抜いた後の歯のリスク
神経を抜いた歯は、割れやすくなるだけでなく、さらに微細な亀裂が入りやすいため、虫歯への再感染のリスクも考慮する必要があります。
亀裂から細菌が侵入しやすくなるため、厳密な密封と定期的なメンテナンスが必要となります。さらに、色が変わることもあり、審美的な問題も生じる可能性があります。これらのリスクを管理するためには、適切なケアが不可欠です。
神経を抜いた歯の寿命
神経を抜いた歯の一般的な寿命
抜髄後は、正確な根管治療とメンテナンスがされた場合は、他の天然歯と同じように長期間もたせることが可能です。しかし、長期間もたせるためには、治療の質と共にその後のケアが大変重要です。
神経を抜いた歯の寿命に影響する要因
神経を抜いた歯の寿命に大きく影響する要因としては、以下のようなものがあります。
根管治療の質
根管治療が正確に行われることが、長期的な成功の鍵です。不完全な根充填や不適切な密封は、将来的な問題がおこる原因となります。
被せ物での保護
神経を抜いた歯は脆くなりがちですので、特に咬合面が広い臼歯の場合は、被せ物で覆うことが推奨されます。
定期的なメンテナンス
定期的なメンテナンスと歯科衛生士が専用の器械・器具を使って行うクリーニングが、神経を抜いた歯に問題が起こった場合の早期発見と早期治療に役立ちます。
神経を抜いた歯の寿命は個人で大きく異なる
神経を抜いた歯の寿命は個人の口内環境や生活習慣、定期的なメンテナンスによって大きく異なります。根管治療を行って数年後に、根の部分が感染を起こしてに膿が溜まる場合があります。その時は再び根管治療を行います。感染がおさまらない場合は、抜かなければならないこともあります。
神経を抜いた歯のケア方法
歯の神経を抜くことを抜髄といいます。抜髄後のケアには以下のような点に注意しましょう。
日常的な歯磨きについて
通常の歯と同様に、毎日の歯磨きが欠かせませんが、抜髄後の歯は特に優しく丁寧に扱いましょう。硬い食べ物は避け、歯に強い力がかからないように注意することが大切です。
定期健診の必要性
神経を抜いた歯は、定期的な歯科健診を通じてその状態をチェックすることが重要です。定期的にX線検査を行うと、歯根の状態や被せ物のフィット感などの問題を発見することができます。これにより、小さな問題が大きな問題に発展することを防ぐことができます。
専門的なクリーニング
定期的に歯科医院でプロフェッショナルクリーニングを受けることも、神経を抜いた歯の健康維持には欠かせません。専門的なクリーニングにより、磨き残しや歯石の除去が可能となり、歯肉炎などの疾患のリスクを低減します。
歯の神経を抜いた場合の歯の寿命に関するQ&A
根管治療は、虫歯などによって歯髄がダメージを受けたり感染して炎症を起こした場合に行われる処置です。まず局所麻酔を施し、歯に穴を開けて感染した歯髄を取り除きます。次に、根管内を薬剤で洗浄・消毒し、シーリング剤で密封します。最後に被せ物を装着して治療が完了します。これにより、歯は保存され、今後も使用可能になりますが、元の強度が失われるため、定期的なケアが必要です。
歯の神経を抜くと、歯髄が完全に取り除かれ、内部が根管充填材で密封されます。この状態では「死んだ歯」となり、弾力性が失われて硬く、脆くなります。そのため、咬合力が加わった際に割れやすくなります。また、微細な亀裂が入りやすくなり、再感染のリスクもあります。適切なケアと定期的なメンテナンスが必要です。
神経を抜いた歯の寿命に影響を与える要因には、根管治療の質、被せ物での保護、定期的なメンテナンスがあります。根管治療が正確に行われ、しっかりと密封されていることが重要です。また、脆くなった歯を保護するために被せ物をすることが推奨されます。さらに、定期的なメンテナンスとクリーニングにより、問題が早期に発見され、適切な処置が行われることが長期的な健康を保つ鍵です。
まとめ
神経を抜いた後の歯は適切なケアを行うことで、その後も長期間にわたって機能を維持することが出来ます。重要なのは、歯科医院で定期診断を受け、正しい方法で毎日の歯磨きを行うことです。