歯の主な働きは食べ物を噛む(咀嚼)と発音の調整です。そして噛むことは脳の働きと密接な関係があります。これらの歯の働きについてご説明します。
目次
歯の健康が脳に与える影響とは?
歯の健康は、実は脳とも密接に関係しています。噛むという行為は、ただ食べ物をすりつぶすだけでなく、脳の様々な機能にも影響を与えるとされています。例えば、歯が健康でないと噛む力が弱まり、脳への刺激が減少します。これにより、記憶力や集中力の低下が起こることが報告されています。
また、歯の健康状態が悪いと、体内に炎症が広がりやすく、これが脳に悪影響を及ぼすことも考えられます。特に、歯周病は全身の健康問題と密接に関連しており、最近の研究では、アルツハイマー病などの認知症との関連が指摘されています。
歯と脳の働きの関係
食べ物を噛むときには咀嚼筋、唇や頬の筋肉などを使います。そして食べ物を飲み込むときには舌筋、口蓋筋、舌骨筋群、咽頭の筋など、多くの筋を使います。
口の周りの神経は、食べ物が口に入って噛んだときに、歯の根っこと骨との間にある歯根膜や舌、口の周りの筋肉からの情報を脳に送り、脳と口の間での情報伝達と指令が行われます。
よく噛んで食事をとると、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚という五感の情報が脳に送られ、
脳のあらゆる部位を活性化させます。
噛むことで認知力・記憶力が上がる
しっかり噛むことによって、脳の前頭前野の活性化が誘発されることがわかっています。
前頭前野は大脳皮質の約30%を占める大きな領域で、コミュニケーション、感情の制御、記憶のコントロール、意思決定などの働きを担っています。特に高齢者において前頭前野の活性化は認知力の向上につながるといわれています。
また、噛むことは脳の海馬も刺激します。脳に入った情報はいったん海馬で整理され、その後大脳皮質にファイルされていきます。海馬には位置や場所、方向などを把握する空間認知能力もあり、海馬の機能が落ちると空間認識能力も低下して自分がどこにいるのかわからなくなります。
ガムを噛んでもらいながら記憶テストを行うと、高齢者の海馬が活性化され、ガムを噛まないときよりも記憶テストの成績がアップしたという実験結果もあります。
噛む力が脳の活性化に繋がる理由
噛むという動作は、脳に直接的な刺激を与え、活性化させる役割を持っています。これは、食事中に噛む動作が神経を通じて脳に信号を送るためです。この信号によって、記憶を司る海馬や感情をコントロールする大脳皮質などが刺激を受けて、脳全体が活性化されます。
特に高齢になって歯を失ったりして噛む力が弱まると、認知機能が低下する可能性があるため、噛むことの重要性が注目されています。入れ歯(義歯)やインプラント治療によって噛む力を回復することが、脳の健康維持に役立つとされています。
歯周病とアルツハイマー病の関係
歯周病は歯垢が原因で発生する細菌による炎症性疾患で、放置すると歯を支える骨を溶かしてしまいます。この炎症が全身に広がると、脳にも悪影響を与える可能性があります。特に最近注目されているのは、歯周病とアルツハイマー病との関連です。
いくつかの研究では、歯周病菌が脳に侵入し、脳の神経細胞を破壊することが報告されています。この結果として、認知機能が低下し、アルツハイマー病を発症するリスクが高まるとされています。さらに、歯周病により血液中に炎症性物質が増加し、これが脳に影響を及ぼすことで認知症のリスクが高まるとも考えられています。
歯を失うと認知機能へのにリスクが高まる
歯を失うことは、単に食べ物を噛む能力が低下するだけではありません。歯が失われると噛む力が低下し、その結果、脳への刺激が減少し、認知機能の低下や認知症のリスクが増加すると言われています。
ある研究では、歯が多く残っている人ほど認知機能が高く、歯を多く失った人は認知機能が低い傾向があることがわかっています。また、歯を失うことで社会的な交流や活動が減り、人と会わなくなるため、これも脳に対して悪影響を与える要因となります。
歯の健康管理と健康寿命の関係
健康寿命とは、誰かの介護を必要とせず、健康な状態で自立した生活を送れる期間のことをいいます一人で自由に行きたいところに行き、病気などの疾患に悩まされずに、毎日を生き生きと送ることが出来る、この期間が長ければ長いほど健康寿命は長くなります。
日本人の健康寿命
男性72.14歳
女性74.79歳
厚生労働省の2016年の推計による
健康寿命が短くなる原因は、糖尿病や高血圧、脳梗塞や心筋梗塞などの病気です。これらの病気は命にかかわることもありますし、寝たきりの状態になることも少なくありません。
生活習慣病を防いで健康寿命を伸ばすには、食事の内容が大切です。同時に、歯をはじめとする口の中の健康も重要なポイントです。
噛めなくなると老化が進む
シニアになると歯の本数が減っていきますが、その原因の3割を虫歯が占めており、4割を歯周病が占めています。
歯周病は、歯茎や歯を支えている骨などの歯周組織が歯周病菌によって炎症を起こし破壊される病気で、日本人の成人の約8割が歯周病にかかっているといわれています。
自分の歯で一生おいしく食事を楽しめる高齢者もおられますが、一般的には高齢になるほど抜けた歯の本数が増え、代わりに入れ歯を装着して食事をすることになります。
近年ではインプラントも普及してきましたが、保険がきかない自由診療で治療費が高いため、誰でも治療を受けられるわけではありません。
歯周病や虫歯で歯を悪くして、十分に噛むことが出来ない人は多く、義歯を装着しても、噛む力はどうしても弱くなります。そして、良く噛めなくなると老化が進み、生活習慣病を招いて寿命まで縮めてしまうことが、近年の研究で明らかになってきました。
歯の健康を守るために・・
歯と脳の健康を守るためには、毎日のセルフケアと歯医者での定期健診が欠かせません。以下のポイントを意識することで、脳への影響を最小限に抑え、歯の健康を長く保つことができます。
- 毎日の丁寧な歯磨き・・歯垢をしっかりと除去し、歯周病や虫歯を予防します。
- 定期的な歯科健診・・問題がないように見えても、定期的な健診を受けることで、早期発見・早期治療が可能になります。
- バランスの取れた食事・・噛む力を維持するために、硬い食べ物を適度に摂取することが大切です。
- ストレスの管理・・ストレスは口内環境にも影響を与え、歯周病のリスクを高めることがあります。心身の健康を保つことが、歯と脳の健康にも繋がります。
歯の働きと脳の関係に関するQ&A
歯の健康は健康寿命に密接な関係があります。歯周病や虫歯によって歯を失い、噛むことができなくなると栄養不足になり、生活習慣病を引き起こすリスクが高まります。良好な歯の健康は食事を適切に摂るために重要であり、健康寿命を伸ばす一つの要素となります。
歯の健康を保つためには、定期的な歯科検診と歯磨きが重要です。また、口の中の健康をサポートするためにバランスの取れた食事を心掛けることも大切です。歯周病や虫歯のリスクを減らすためには、砂糖の摂取を控え、適度なフッ素の使用も検討しましょう。
食べ物を噛む際に使用される口の周りの筋肉からの情報が脳に伝達され、脳の活性化に繋がります。噛むことによって脳の前頭前野が活性化され、認知力や記憶力の向上に寄与します。また、噛むことは海馬の刺激にもなり、空間認識能力の維持にも役立ちます。良好な歯の健康は脳の働きをサポートし、認知機能の維持に寄与します。
まとめ
歯は脳と密接なつながりを持つ臓器といえます。自分の歯を長持ちさせて、一生噛み続けられるかどうかが、私たちの健康寿命を大きく左右します。自分の歯であれ、入れ歯であれ、しっかり噛んで認知症や生活習慣病のリスクを下げましょう。