歯の根が細菌に感染すると、根尖病巣や歯根嚢胞という症状が起こります。歯茎の内部での炎症のため、レントゲン撮影でまず歯茎の周辺がどのような状態になっているのかを診て治療を行います。
目次
感染の初期症状
歯の根に感染が起こる場合、初期段階では気付きにくいことが多いですが、いくつかの症状が現れることがあります。これらの症状に気付いた時にそれを放置しないことが、早期治療に繋がります。以下の初期症状が見られたら、速やかに歯科医院を受診することをおすすめします。
歯茎の腫れや違和感
感染が進行すると、歯茎に炎症が起こり、腫れたり赤くなることがあります。初期の段階では痛みが少ないこともありますが、腫れが続く場合は注意が必要です。
咬むときの軽い痛み
食べ物を咬むときに軽い痛みや違和感を感じることがあります。これは歯根に炎症が起こっているサインであり、放置すると痛みが強くなることがあります。
歯の変色
感染が進行すると、歯の色が変わることがあります。歯の根に問題がある場合、歯が灰色や茶色っぽく変色することがあり、これは血流が減少したり、感染が広がっている兆候です。
冷たいものや熱いものに敏感になる(知覚過敏)
冷たい飲み物や熱い食べ物を口にした時に、歯が痛むことがあります。この症状は知覚過敏とも似ていますが、歯の根の感染が原因である場合もあります。持続的な痛みがある場合は、歯科医に相談することが重要です。
これらの初期症状は、早期に治療を受けることで悪化を防ぐことができます。症状が軽いからといって放置すると、歯の根の感染が進行し、治療が複雑になることもあります。早めに受診し、治療が必要かどうか診察してもらうと安心です。
感染の進行と歯や身体への影響
歯の根に感染が起こった場合に放置すると、感染は徐々に進行し、歯だけでなく、周囲の組織や全身にも影響を与えることがあります。感染によって起こる様々な影響には以下のようなものがあります。
1. 歯根の周囲に膿が溜まる(根尖性歯周炎)
感染が進行すると、歯の根の先端に膿が溜まることがあります。この状態を根尖性歯周炎といい、歯茎が腫れて強い痛みが起こります。膿が溜まることで圧迫感を感じたり、食べ物を咬んだ時に痛みが増すこともあります。膿が多くなると、痛みが増すため、早めの治療が必要です。
2. 歯茎から膿が出る
感染がさらに進むと、膿が歯茎にまで広がって膿の出口ができ、そこから膿がお口の中に出てくることがあります。膿が出ることで内部の圧力が減り、一時的に痛みが和らぐことがありますが、根本的な治療が行われない限り、感染は治まらず再発を繰り返します。この状態は見た目にも影響しますし、膿による口臭はとても強いため、不快感を引き起こすことがあります。
3. 顎の骨に広がるリスク
歯の根の感染が進むと、顎の骨にまで感染が広がることがあります。これを「骨吸収」と呼び、骨が徐々に失われていく状態です。骨吸収が進行すると、歯を支える骨が弱くなり、歯がぐらついたり、最悪の場合には抜けてしまうことがあります。骨の損失が大きくなると、インプラントなどの治療が困難になるため、早期の対応が重要です。
4. 全身への影響(菌血症や敗血症のリスク)
感染が歯のみにとどまらず、全身に広がる可能性もあります。口腔内の感染が血液を介して全身に広がると、菌血症や敗血症といった重篤な症状を引き起こすリスクが高まります。特に、免疫力が低下している人や、高齢者、慢性疾患を持つ人は、全身への影響が強く出やすいため、急いで歯科医院での治療を受けることをおすすめします。
5. 感染が進行するまでの時間
感染が進行するスピードは個人差がありますが、早ければ数週間から数ヶ月で深刻な状態になることもあります。特に、初期症状を見逃してしまうと、気付いた時には根管治療や抜歯が必要なほど進行しているケースも少なくありません。
歯の根の感染 根尖病巣・歯根嚢胞の症状
根尖病巣や歯根嚢胞の症状としては、歯茎の痛みや腫れ、物を噛んだ時の痛みなどがあげられます。根尖病巣や歯根嚢胞があってもあまり自覚症状がなく、患者さんは全く気付いていなかったが、たまたま歯科医院でレントゲンを撮ったときに見つかるというケースもあります。
レントゲンで見た時に、歯の根の先に丸い形の黒い影が映っていた場合は、感染してできた膿の袋だと考えられます。
神経を取ると歯の根に病気が起こりやすい
神経を抜いた歯には、歯の根の病気が起こりやすいので注意が必要です。神経を抜いた歯は免疫力が落ちているため細菌に感染しやすく、一旦感染すると、炎症が広がりやすいです。
歯の神経を取った後、その部分に細菌が感染して起こる歯周炎のことを「根尖性歯周炎」といいます。また、歯の根の先から骨の中まで炎症が広がった状態を「根尖病巣」または「歯根嚢胞」と呼びます。
神経を取った歯以外にも、虫歯が神経にまで達している場合に、少しの衝撃で歯髄が壊死を起こして歯の根元で神経が切断されてしまうと、根尖病巣や歯根嚢胞が起こってしまいます。
歯の根の病気の治療とは?
歯の根に炎症が起こる根尖病巣や歯根嚢胞の治療は、症状が改善しないと抜歯になるケースもあります。歯の根に炎症が起こった場合には、歯科医院ではファイルやリーマと呼ばれる専用の機具を使って神経の入っていた根管という部分をきれいに洗浄してから薬を詰めていきます。この治療を根管治療と呼びます。
根管治療は大変難しい治療で、特に奥歯の根っこは数が多い上に、まっすぐではなく曲がりくねって途中で枝分かれしていることもあり、肉眼では良く見えない部分もあります。
肉眼では見えにくい細かい部分をはっきり見ながら治療するためには、歯科専用の拡大鏡(ルーペ)やマイクロスコープを使用する方法もあります。
歯の根っこに膿が溜まった時には自覚症状がない場合もある
歯の根に膿が溜まっていても、すぐに症状が出ない時があります。
歯茎に膿がたまった時の症状
- 自覚症状なし
- 歯が浮いた感じ
- 口内炎のようになる
- ものを噛むと痛い
- 歯茎が腫れる
- 痛みが出る
- 頭痛
意外と多いのが無症状です。レントゲン撮影をして初めて膿が溜まっていると指摘され、患者さんは驚かれます。
根の感染が放置された場合のリスク
歯の根に感染が起こった場合、早期に治療を行わず放置すると、さまざまな深刻なリスクが生じる可能性があります。感染が進行することで、局所的な問題だけでなく、全身への影響が及ぶこともあるため、早い時期に適切な治療を受けることが大切です。ここでは、感染を放置した場合に考えられるリスクについてご説明します。
1. 歯を失うリスク
感染が進行して歯根が深く侵されると、最終的には歯を支える骨が弱くなり、歯自体が抜けてしまう可能性があります。歯を失うと、その後の食生活に大きな影響が出るだけでなく、隣接する歯に負担がかかることで、歯並びの崩れや噛み合わせの問題を引き起こすこともあります。失った歯の治療には、ブリッジやインプラントといった治療が必要となり、治療費や時間も大きな負担となります。
2. 感染が隣接する歯に広がるリスク
歯の根に感染が起こった場合、その感染は放置されると隣接する歯に広がることがあります。隣の歯にまで感染が進行すると、健康な歯にもダメージが及び、複数の歯を治療しなければならない状況になる可能性があります。特に、感染が進んで膿が出ると、その膿が他の歯や周囲の組織に広がりやすくなるため、早期の治療が必要です。
3. 顎の骨が溶ける(骨吸収)リスク
感染が進行すると、歯根の周囲にある顎の骨が溶ける「骨吸収」が起こることがあります。骨吸収が進むと、顎の骨が弱くなり、歯を支える力が失われます。また、骨吸収が進行した場合、インプラント治療などの補綴治療が困難になることもあります。骨が大幅に失われると、骨を再生するための外科的手術(骨移植など)が必要になる場合もあり、治療の難易度が高くなるだけでなく、治療期間も長期化します。
4. 全身の健康に影響が及ぶリスク
口腔内の感染は、全身の健康にも影響を及ぼすことがあります。特に免疫力が低下している場合、感染が血流を通じて全身に広がり、菌血症や敗血症といった重篤な感染症を引き起こすリスクがあります。特に、心臓や関節などに細菌が付着すると、心内膜炎や感染性関節炎といった危険な病気に発展することがあります。こうした全身への影響は命に関わることもあるため、感染を放置することは大変危険です。
5. 慢性的な痛みと口臭のリスク
根の感染が進行すると、歯の痛みが慢性的なものになり、日常生活に大きな影響を与えることがあります。また、膿が溜まっている場合、口臭が強くなります。これにより、食事や会話に支障が出たり、精神的なストレスを感じることも少なくありません。放置した結果、日常生活の質が大きく低下することもあり、社会生活にも悪影響を及ぼす可能性があります。
歯の根っこに膿が溜まった場合の治療とは?
歯の根に膿が溜まっている時は、膿を排出させて炎症を抑える必要があります。歯の根が割れている場合は根管治療を行っても症状が改善しない場合や、繰り返し症状が起こる場合は抜歯になることも珍しくありませんが、歯科用マイクロスコープを使用した精密根管治療(自費診療)を行えば、抜歯を免れる場合もあります。詳しくは担当医にお尋ねください。
マイクロスコープとは
マイクロスコープを使用すると歯の根管の中に光を通して明るくして見ること出来、20倍以上に拡大して見ながら治療を行うことが出来ます。
歯の根の先は肉眼では見ることが出来ませんでしたが、マイクロスコープを使うことで鮮明に見ることが出来、根管内の汚れを取り残すことがなく、精密が治療を行うことが可能になりました。
歯の根の治療に関するQ&A
歯の根に感染すると、根尖病巣や歯根嚢胞という症状が現れます。歯茎の内部で炎症が起こり、レントゲン撮影で状態を確認し治療を行います。
神経を抜いた歯は免疫力が低下し、細菌感染や炎症の広がりが起こりやすくなります。根尖性歯周炎や根尖病巣、歯根嚢胞などの病気が起こる可能性があります。
歯の根の病気の治療には根管治療が行われます。専用の機具を使用して根管内を洗浄し、薬を詰める治療です。また、根尖病巣や歯根嚢胞が改善しない場合は抜歯することもあります。
まとめ
歯の根に感染が起こると、根尖病巣や歯根嚢胞という症状が現れます。神経を取った歯は免疫力が低下し、細菌感染や炎症の広がりが起こりやすくなります。根尖病巣や歯根嚢胞の症状には歯茎の痛みや腫れがあり、自覚症状がない場合もあります。治療には根管治療が行われ、専用機具で根管を洗浄し、薬を詰めます。マイクロスコープを使用することで精密な治療が可能になります。膿が溜まった場合の治療では、膿を排出させて炎症を抑える必要があります。根管治療や抜歯が必要な場合もありますが、マイクロスコープを使用した治療で抜歯を回避することもあります。